快適な人工透析ライフと長期生命維持を果たすために、私達透析患者は、人工透析に伴う合併症に対して正しい知識を持ちそしてその予防に心がけ、かかってしまったら適切な治療を受けなければなりません。透析中の合併症については、「私の透析日の1日」のコーナーで説明しましたので、ここでは長期の透析患者が増加していることに伴う人工透析特有の主な合併症に限定して、その治療・予防も含め説明します。

【1】二次性副甲状腺機能亢進症(2HPT)、慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD−MBD)
 副甲状腺は、首にある甲状腺の脇、上下左右に計4個あります。
 慢性腎不全では、次の二つの理由により、副甲状腺から副甲状腺ホルモン(「PTH」)がたくさん分泌されます。

(1)高リン血症
 リンはほとんどが腎臓から排泄されるので、慢性腎不全では血液中にはリンがたまってきます。たまったリンは、直接副甲状腺を刺激します。

(2)活性型ビタミンD不足
  ビタミンDは腎臓で活性化されるので、これが不足すると食物中のカルシウムを腸から吸収できなくなります。(カルシウムを腸から吸収するためには、活性型ビタミンDの手助けが必要です。)
  カルシウムを腸から吸収できなくなると、血液中のカルシウムが減ります。(低カルシウム血症)
  以上二つの理由により、副甲状腺から副甲状腺ホルモンがたくさん分泌されると、最大のカルシウム貯蔵庫である骨を溶かし、血液中の不足したカルシウムを補います。
 このように、副甲状腺ホルモンがたくさん分泌され続ける病気を「二次性副甲状腺機能亢進症」と言います。
この病気が長く続くと、骨はどんどん溶け出してもろくなる「線維性骨炎」にかかってしまいます。また、この病気がひどくなると、骨や関節の痛み・骨折・筋力の低下・かゆみ等の症状が起こってきます。
 従って、これらの症状が出る前に治療を始める必要があります。
 尚、副甲状腺ホルモ ンの分泌状況を調べる血液検査(透析前)には、感度が良く特異性のあることから「intact―PTH」という指標が現在多く使われています。(基準値;10~65pg/ml)
 <人工透析患者の目標値は、「60~240pg/ml」(透析前)>
 また、最近は副甲状腺ホルモンの分泌状況を調べるさらに信憑性の高い「whole-PTH(基準値:9~39pg/ml」という指標も使われており、わが腎クリニックでも平成17年11月7日の血液検査より、こちらに一時切り替わりました。透析患者の場合の管理目標値は、透析前数値で「35~150pg/ml」と言われています。現在は、「intact―PTH」に戻っております。
 ここで、副甲状腺ホルモン(PTH)の過剰分泌による「二次性副甲状腺機能亢進症」が原因となる様々な「悪さ」について、全腎協発行の「ぜんじんきょうNO.201(2004年1月6日発行)」の記事に基き、上記内容を含め改めて整理しておきましょう。
 ①骨や関節の破壊(骨折・骨痛・関節痛・腱の骨からの剥離等)
  PTHが増加すると骨からカルシウムを吸収する(削る)結果、骨折しやすくなります。日常生活の中のひょっとした出来事で骨が折れてしまい(病的骨折)、活動が大きく制限されます。また、関節が痛くなり、動かせる範囲が狭くなることもあります。あるいは、アキレス腱や大腿、膝の腱が痛むことも多く、時には筋肉と骨をつないで筋肉の動きを骨に伝える腱が切れてしまい、全く歩けなくなってしまう(腱断裂)ことさえあるのです。
 ②異所性石灰化(末梢循環障害・動脈硬化等)
 血液中のリンが増えればPTHがたくさん作られ、また血中カルシウムが不足しても同様にPTHが増え、リンの高い状態が持続すればますますPTHの産生を促しますので、放っておくと臓器や組織にカルシウムとリンがくっつく現象が起きます。血管の壁が固くなって動脈硬化を起こしたり、心臓の弁にくっついて弁膜症を引き起こすなど、こうした異所性石灰化は、生命予後を短縮する要因となります。また、関節の中が石灰化すれば関節炎から関節は痛み、腫れあがり、動かすこともままならなくなります。眼の「しろ目」に溜まると、結膜炎を起こして「しろ目」が真っ赤に充血します。皮膚の下に溜まると、痒みの原因になります。
 ③貧血の増悪
 骨を壊す過程でPTHは血液を造る場所である骨髄も削り取っていきます。また、PTHは赤血球の卵が赤血球に育つのを妨げます。さらに、赤血球の壁を脆くして赤血球の寿命を短くします。これらはすべて貧血を招く原因になり、エリスロポエチンを注射しても効かない貧血の原因の一つとされています。
 ④神経障害
 神経には信号が流され、様々な情報が伝達されますが、PTHはこの信号の流れを妨げる作用があります。手足のだるさや神経の中を信号が流れる速度が遅くなる異常、さらには脳波・脳神経系の異常にもPTHの関与が疑われています。
 ⑤心筋障害
 PTHは心臓にも作用します。異所性石灰化以外にもPTHそのものがが高いと、脈拍が増えるとか、心臓の筋肉(心筋)に変化が起きて心臓を収縮させる力が衰えるとかの影響が疑われます。
 ⑥頑固な痒み
 人工透析患者共通の悩みの一つである痒みは、原因は多種多様ですが、PTHの過剰もその原因の一つです。特に頑固で高度な痒みの原因になることが知られています。これは、副甲状腺を手術で取り去ると、頑固な痒みが無くなることで裏付けられています。
 ⑦性機能障害の進行 
 PTHは性機能障害にも関係しています。インポテンツ、月経異常、性欲低下等の原因の一部にPTHの増加があります。これらも副甲状腺を外科的に除去することで改善されることがあります。
 ⑧その他(免疫力低下等)
 人工透析患者にみられる脂質(中性脂肪やコレステロール)の異常、食後血糖値の過度の上昇、多くのホルモンの異常等、多岐に亘る障害にもPTHの増加が関係していることが解っています。また、人工透析患者は感染症や癌にかかりやすいと言われていますが、この原因となる免疫力の低下にもPTHの増加が関与しています。
 PTHの働きを受けとる受容体が骨以外の多くの臓器に分布していて、PTHの増加が以上のように広範な影響を及ぼすことになるのです。

 「二次性副甲状腺機能亢進症」の
治療は、充分な透析に加え次の通りです。

(1)食事
 予防も含めリンを多く食品の摂り過ぎに注意しなければなりません.
 血液中のリンの数値は、6mg/ml以下(理想は5.5mg/ml以下)に抑えるようにします。
 たんぱく質を多く含む(肉類・魚類等)やカルシウムを多く含む食品(乳製品・小魚等)には、リンが多く含まれています。いずれも食べ過ぎは禁物です。参考までに、日常私達がよく食する「食品のリン含有量」一覧表を添付しておきます。 (ココクリック・PDFファイル)

(2)お薬

 ①活性型ビタミンD製剤(この薬の間欠大量投与を「パルス療法」と言います。)
副甲状腺ホルモ ンの分泌を抑え骨の病気をを防ぎます。
私の場合も、副甲状腺ホルモ ンの分泌状況指標の「intact―PTH」が上がってきたとき、活性型ビタミンD製剤を1日1回毎朝食後1錠服用していました。その後、「intact-PTH」やカルシウムの数値もみながら、現在まで休薬したり、1日1回毎朝食後服用したり、1日おきに服用したりして、適宜調整しています。
この経口活性型ビタミンD製剤により効果か充分に得られない場合は、過剰に分泌されている副甲状腺ホルモンを抑えるための活性型ビタミンD製剤の注射薬(「オキサロール」「ロカルトロール」)もあります。 薬剤投与は、「intact―PTH」が目安として150pg/ml以上になると一般的に投与を開始しますが、「オキサロール」の場合個々の状況に応じ、1回2.5~10μgを週3回(透析後)、透析回路静脈側に注入します。
改善効果が得られない場合は副作用の「高カルシウム血症」の発現に注意しながら、1回20μgを上限に慎重に漸増します。
この「オキサロール」の最も多い副作用である「高カルシウム血症」を放置すると、異所性石灰化を来たし、ひいては狭心症や心筋梗塞の原因ともなります。
従って、血清カルシウム数値が11.5mg/dlを超えたら、「オキサロール」を減量・休薬するか飲み薬に変更したりします。飲み薬の場合も改善度合いにより減量・休薬します。
「intact―PTH」は、あまり下がっても低回転骨になり、骨がもろくなるそうです。
尚、活性型ビタミンD製剤は、上記のように副甲状腺ホルモンを抑えるためと骨の成長を維持する働きがありますが、忘れてならないのは、腸管からカルシウムと同様にリンの吸収も促進してしまうのです。従って、リンの検査結果を見ながら活性型ビタミンD製剤は休薬(リン数値5.5以上)も含め調整する必要があります。
<活性型ビタミンD製剤の詳細は本HP「その他インフォメーション」【19】参照>

②リン吸着剤(炭酸カルシウム・酢酸カルシウム・塩酸セベラマー・炭酸ランタン・ピキサロマ—・クエン酸第二鉄等の飲み薬)
腸の中で食物中のリンとくっ付いて、リンを吸収されにくくします。そして、便ととともに排泄されます。
(結果的に血液中のリンを下げます。)
この薬の効果を充分に発揮させるためには、この薬と食物が胃の中でよく混ざることが重要です。従って、この薬は食事中か遅くとも食事終了直後に飲まなければ意味がありません。
食事終了直後に服用するより、食事中に服用し、食べ物と食べ物の間にサンドイッチのように挟んでしまう方が効果があります。
尚、現在広く使われている炭酸・酢酸カルシウム剤等は、純粋にリンを吸着するための薬ではなく、本来カルシウムを補給する薬として用いられていたものです。
従って、患者によってはどうしても血中カルシウムがあがり過ぎるという欠点がありました。そこで、米国で開発・使用されているカルシウムもアルミニウムも含まない新しいリン吸着剤(商品名:「レナジェル錠」「フォスブロック錠」<詳細「その他インフォメーション」【5】参照)が、健康保険適用の薬として、日本でも使用可能になりました。また、同様にカルシウムもアルミニウムも含まない新しいリン吸着剤(商品名:「ホスレノールチュアブル錠」<詳細「その他インフォメーション」【29】参照)も、健康保険適用の薬として、日本でも使用可能になりました。それから、平成24年5月に「ホスレノール顆粒分包250mg/500mg」という顆粒製剤(いわゆる粉薬形態)が発売されました。その後平成24年6月に新しいリン吸着剤(商品名:「キックリンカプセル」)、さらに平成26年5月に新しいリン吸着剤(商品名:「リオナ錠」)が新発売されました。
現在私の場合、「酢酸カルシウム剤(リンゴ酢カルシウム)」と「ホスレノールチュアブル錠」を毎食中各2錠を基本に適宜増減服用しています。

尚、「日本透析医学会」のホームページ上に、透析患者の「二次性副甲状腺機能亢進症治療ガイドライン」をさらに発展させた「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン」が平成24年に公表されていますので、参考までにそのポイントを次に紹介しておきましょう。
①血清リン(以下P)、血清カルシウム(以下Ca)濃度の測定頻度は、月最低1~2回測定する。但し、P・Ca濃度が管理目標値から逸脱した場合、あるいはその危険性が高い場合は、その値が安定するまでは頻回測定する。
 ・P濃度の目標値=3.5~6.0mg/dl
 ・Ca濃度の目標値=8.4~10.0mg/dl
 <注>血清アルブミン(Alb)が4g/dl未満の場合は、必ず補正Ca値を用いる。
 Payneのカルシウム補正式
 補正Ca値(mg/dl)=実測血清Ca値(mg/dl)+〔4-血清Alb値(g/dl)〕
②副甲状腺ホルモン(以下PTH)は3ヶ月に1回測定する。(通常「intact-PTH」として測定) 但し、積極的な治療を施行している際、あるいは治療を変更した際は、安定するまで、少なくとも3ヶ月間にわたって1ヶ月に1回の測定を行なうべきである。
 ・「intact-PTH」の管理目標値=60~240pg/ml
 <注>1-84系の測定系である「whole-PTH」の管理目標値は、以下の式により、「whole-PTH」の値に概算することができる。
  「intact-PTH」÷1.7≒「whole-PTH」35~150pg/ml
③骨代謝マーカーとしては、通常月1回測定する「血清アルカリフォスファターゼ(ALP)値」をまず利用する。
④内科的治療(活性型ビタミン製剤による治療等)に抵抗する「高PTH血症(intact-PTH>500pg/ml)が持続し、「高Ca血症(補正Ca>10.0mg/dl)」、または「高P血症(P>6.0mg/dl)」が存在する場合は、副甲状腺インターベンション(副甲状腺摘出術<PTX>または経皮的エタノール注入療法<PEIT>)を考慮すべきである。
◆「日本透析医学会」による「透析患者における二次性副甲状腺機能亢進症治療ガイドライン及び慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン(クリック)」の詳細を紹介しておきます。
◆尚、「二次性副甲状腺機能亢進症」に対する新治療薬「レグパラ錠」を次に紹介しておきましょう。
2007年10月19日、二次性副甲状腺機能亢進症治療薬のシナカルセト塩酸塩(商品名::「レグパラ錠25mg、同75mg」<詳細ココクリック>)が製造承認を取得しました。承認された適応は「維持透析下における二次性副甲状腺機能亢進症」です。薬価収載後に発売されました。(平成20年はじめ頃)
従来から、二次性副甲状腺機能亢進症の治療には、不足する活性型ビタミンDを補う目的で、活性型ビタミンD製剤であるカルシトリオール(商品名:ロカルトロールほか)などが使用されています。しかし、活性型ビタミンD製剤は、PTH抑制効果は確実ではあるものの、同時に小腸からのカルシウム吸収能も上昇させるため、投与量を増やすと高カルシウム血症を引き起こす危険があり、PTHを抑制するために十分な量を投与できない場合がありました。
これに対し、「シナカルセト」は、副甲状腺細胞表面のカルシウム受容体に直接作用することで、血清カルシウム値を上昇させずにPTHの分泌を抑制するとともに、血清リン値をも低下させる薬剤です。その作業機序から、カルシウム受容体作動薬(calcimimetics)とも呼ばれています。海外では、米国を始め、EU、オーストラリアなど30カ国以上で既に承認されています。日本では、2000年から血液透析患者を対象とした臨床試験が行われており、ようやく承認となりました。 今後、「シナカルセト」は、透析患者の二次性副甲状腺機能亢進症の治療に多く使用されていくものと考えられますが、海外の試験では、長期使用により悪心や嘔吐など、消化器関連の副作用症状が出現したことが報告されています。(但し、投与を中断するほどのものではない)こうしたことから、「シナカルセト」を使用する際は、当初は少量から投与を開始し、患者の状態や検査データなどを確認しながら徐々に増量していくことが必要と考えられます。
◆小野薬品は、平成29年2月15日、透析患者向け静注製剤、カルシウム受容体作動薬エテルカルセチド塩酸塩(一般名)(商品名:パーサビブ)について、血液透析下の二次性副甲状腺機能亢進症を適応症に製造販売を開始したと発表しました。一言で言えば、本薬は「レグパラ錠」の注射版です。
尚、何かと副作用が問題となっている「レグパラ錠」の後釜医薬品で同様の効能を持つ一般名「エボカルセト(商品名:オルケディア錠)詳細クリック」が、平成30年5月23日に「協和発酵キリン(株)」から新発売されました。

【2】アミロイド骨関節症
 長期透析患者が増加するにつれて新たな合併症として、骨関節症が大きな問題となってきており、その中でもアミロイド沈着に関連した骨関節症、即ち手根管症候群・弾発指(ばね指)・多発性関節痛・骨嚢腫・骨折等の「アミロイド骨関節症」と言われる新しい病態が出現してきました。
尚、「アミロイド骨関節症」の代表的な「手根管症候群」の症状や自分で確認できる方法が載っているインターターネットサイト(http://www.miwaclinic.net/CTS.html)を紹介をしておきましょう。
 改めて整理しますと、「β2-MG」に由来するアミロイド繊維が沈着し、症状が出現する「アミロイド骨関節症」別名「透析アミロイドーシス(「DRA」とも言います)」は、沈着した部位や症状によって、大きくそれぞれ固有の疾患名がつけられています。
 ①手関節に発症する「手根管症候群(CTS)」=平均発症期間は、透析開始後17年、20年以上
   では100%=
 ②脊椎に発症する「破壊性脊椎関節症」
 ③大小の骨に発症する「骨嚢胞」=手根骨、上腕骨頭、肩関節、股関節、膝関節が好発部位=
   等です。
 さらに、長期透析患者のアミロイド沈着は骨・関節部位にとどまらず、これだけが要因ではありませんが、内部実質臓器に及ぶ「透析アミロイドーシス」になることも解かってきました。
 このアミロイドの構成成分は、通常の透析では除去しきれないβ2―マイクログロブリンであることは明らかにされていますが、アミロイド沈着がなぜ骨・関節部位に発生するのかはまだ明らかにされていません。
 透析患者の血清β2―マイクログロブリンの数値は、普通の人に比べ40~50倍高い数値となることもあります。(β2―マイクログロブリン基準値;0.7~2.0mg/l―透析患者の場合20mg/l以下が望ましい―)
 この「アミロイド骨関節症」の代表的な症状は、手が痛くしびれ、手の平の筋肉がおちてくることが挙げられます。その治療としては、内視鏡手術で狭い手根管にたまったアミロイドを機械的に除去する方法があります。その他には、透析時に「リクセル」という吸着装置を使用するやり方です。即ち、血液をこの吸着体の中を通していくと、血中にあるβ2―マイクログロブリンが表面にある受容体に付着して、きれいになって血液が戻ります。その後、普通のダイアライザーを通って血液を身体に戻すわけです。
しかし、非常に高価なこの「リクセル」という吸着装置を予防に使うのは、保険適用の観点から、現時点難しいようです。 
また、「アミロイド骨関節症」をはじめ「透析アミロイドーシス」の発症のメカニズムや治療法はまだ詳細解明されていないこともあり、現時点ではその予防が極めて重要で、①十分量の透析の施行②生体適合性のよい透析膜の利用③透析液の清浄化(エンドトキシンフリーの透析液使用)④HDFへの移行等が推奨されているところです。
 尚、体内で作られたアミロイドは、関節周囲、消化管の壁、舌、皮膚等に沈着し、身体にとって異物として存在するために、これを排除しようとして生体の防御細胞である「マクロファージ」と呼ばれる細胞が集まって局所的な炎症(異物と「マクロファージ」が戦う戦場)を起こします。この「マクロファージ」がさまざまな組織を破壊する「サイトカイン」と呼ばれる物質を周囲に放出するために、ときには痛みが起こります。関節周囲の骨もこの放出された「サイトカイン」により部分的な破壊を受けます。抗生物質の効かないこの炎症を抑えるためには副腎皮質ステロイドが有効な場合があります。当然のことながら、副腎皮質ステロイド薬は多くの副作用があり、必ず主治医の先生の指示通りに服用することが肝心です。

 尚、上記「β2-MG(マイクログロブりンもしくはミクログロブりン)」に関し、以下の点について覚えておく必要があります。
 「β2-MG」という物質は、赤血球やリンパ球で作られる生理的な物質であり、その発生を完全にストップさせることは不可能と言われています。赤血球やリンパ球等により作られた「β2-MG」は、これらの細胞表面に付着して存在するのですが、そこから離れたこの物質は体液中に広く分布することになります。
 そして血中の「β2-MG」は、ほぼ100%が腎臓で処理されています。腎臓でのこの処理能力が低下するために、腎機能正常者で血中濃度0.7~2.0mg/lの「β2-MG」が、腎不全患者では30~40mg/lと高い値をとるにいたるわけです。
<参考:リクセル(「β2-MG」吸着カラム)の適応症条件について>
 1.手術または生検により、「β2-MG」によるアミロイド沈着が確認された場合
 2.透析歴10年以上で、手根管開放術の既往がある場合
 3.画像診断で骨のう胞像が認められた場合。
 以上の項目が認められる場合に使用できる。但し、初回使用日から1年を限度とし、一旦治療終了後再燃の場合はさらに1年を限度として使用可能。

   
【3】心不全・肺水腫
  心不全と肺水腫の合併症は、治療というよりその予防が極めて大切なことです。
透析患者の食生活において塩分・水分を控えることは困難なことであり、なかなか実行できないのが現実です。
 しかしながら、塩分を摂りすぎるとのどが渇き、のどが渇くと水分が欲しくなります。水分を摂り過ぎると透析間の体重が増加し、むくみ・咳が出る・息苦しくなるなどの症状が出ます。また透析中に吐き気や低血圧等が発生しやすくなり、心不全や肺水腫等の合併症を引き起こすこともあります。
従って、透析患者の場合、心不全や肺水腫等の合併症の予防にはまずもって塩分・水分を控えることに尽きるわけです。

【4】腎性貧血
 腎臓からは赤血球を産生を促進させ、成熟させる働きのあるホルモンとして「エリスロポエチン(略して「EPO」)」が分泌されます。腎機能が低下してくると、この「エリスロポエチン」が出なくなるので、造血能力が低下します。そのため慢性腎不全になると、ほぼ例外なく腎性貧血になります。
 腎性貧血の症状は、疲れやすい・息切れ・めまい・食欲不振・動機・頻脈・顔色が悪い・爪色が悪い・浮腫等があります。
 腎性貧血の血液検査は、ヘモグロビン(血色素量)・ヘマトクリット ・赤血球数・鉄・トランスフェリン飽和度(TSAT<%>)・フェリチン(体内貯蔵鉄とよく相関)・MCV(平均赤血球容積)がありますが、エリスロポエチンを投与しても貧血が改善しない時は、ビタミンB12・葉酸の検査も行います。
 日本透析医学会の「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」2015年版によれば、透析患者の場合、貧血の診断はヘマトクリット(Ht)よりも、ヘモグロビン(Hb)を用いるとしており、その管理目標値は、中2日後の透析前の仰臥位採血による値で「10g/dl以上12g/dl未満」が推奨されています。ヘモグロビン(Hb)値が12g/dl以上」の場合はESA(エリスロポエチン<EPO>製剤や後記の「ネスプ」等の赤血球増血刺激因子製剤)の減量・休薬基準とされています。
 また、フェリチン(体内貯蔵鉄とよく相関)も大事な指標の一つで、透析患者は「100~200ng/ml」が望ましい血液検査数値ですが、それより低い場合は、トランスフェリン飽和度(TSAT<%>)やMCV(平均赤血球容積)の状況等も併せ考え、例えば「フェジン」という鉄分補給剤を透析1回あたり透析終了後2ccをワンクール(10回)投与したりします。(一般的にこれを年2回程度は必要のようです。)
 腎性貧血の治療の第一選択としては、前記の「ESA」を透析終了時に適量を適時透析回路静脈側に投入します。
 尚、透析患者の85%に使われているエリスロポエチン製剤は、半減期の長い第2世代のエリスロポエチン製剤が開発されています。その一つ「novel erythropoiesis stimulating protein(NESP<ネスプ>)」は、従来のエリスロポエチンに新たな糖鎖を結合し、半減期を静注、皮下注とも約3倍に延長、血液透析患者で週2~3回の投与が週1回か2週に1回に延びます。「CAPD」や保存期腎不全患者でも2~4週に1回の投与で管理が可能となります。本剤は、既に「darbepoetin alfa(@�・閉塞、頭痛、倦怠感といった副作用の頻度が高かったことが報告されていますので、このことも含め使用するにあたっては、ドクターに必ず相談・確認されて下さい。
 同じく第2世代のエリスロポエチン製剤として、「continuous erythropoiesis receptor activator(CERA)」が、わが国を含めた世界で開発されています。本剤は、従来のエリスロポエチンを「methoxy-polyethylene glycol polymer(PEG)鎖」で修飾した薬剤で、半減期は現在のエリスロポエチン製剤の約7倍とされています。本剤では、静脈内投与、皮下投与とも4週間に1回の投与で、確実に貧血改善が得られると考えられています。これらの他、経口腎性貧血治療薬についても臨床試験が開始されており、頻回の注射を要したエリスロポエチン療法が月1回の注射、あるいは経口薬剤で置き換わる時代が近づいていると言えます。こうした中、平成23年7月22日に、中外製薬より、2〜4週間に1回投与でよい持続型赤血球造血刺激因子製剤「ミルセラ注シリンジ」(一般名:エポエチンベータペゴル遺伝子組み換え)を新発売しました。このミルセラの詳細については、 コチラをクリックして下さい。
 尚、参考までに「日本透析医学会」による2015年版と2008年版と2004年版「腎性貧血治療のガイドライン(クリック)」を紹介しておきます。

【5】高カリウム血症
 腎臓が機能しない以上、透析患者の高カリウム血症の原因として最も多いのは、カリウムを多く含む食品の過剰摂取です。その他、カロリー摂取量の不足、消耗性疾患、消化管出血等によっても血清カリウム濃度が上がります。
 軽度の高カリウム血症では無症状であることが多いですが、比較的高度の高カリウム血症では、「口のまわりがしびれる」「胸が苦しい」「体がだるい」「足がつる」「かゆみ」「不安感」などの症状が出現します。さらに高カリウム血症が高度になると、急速に心臓に関する症状(例えば徐脈・不整脈)が出現し、やがては死に至る大変怖い合併症です。
 従って、私も血清カリウム濃度には大変神経を使いまして、毎回の血液検査数値が5.0mEq/l(理想)を超えないように食事に気を使っています。

 高カリウム血症の治療は次の通りです。
(1)食事管理
 カリウムが多く含まれている野菜、果物、いも類、海草、肉、魚の摂取量を見直して食べ過ぎないことはもちろんのこと湯でこぼす(湯は捨てる)など調理に工夫します。
(2)薬物療法
 食事管理を行なっても血清カリウム濃度が下がらない場合は、「カリメイト」に代表される高カリウム血症改善剤(ポリスチレンスルホン酸カルシウム)を服用し、便中へのカリウム排泄量の増大を図ります。
(私は今のところ、「カリメイト」のお世話にはなっていません。)
 尚、薬物療法の他に、透析の血液流量を上げる・透析時間を延ばすなどの方法もあります。
◆「高カリウム血症」の症状(ついでに「低カリウム血症」の症状も)、その他を整理してまとめたものを添付しておきます。(ここクリック<PDFファイル>)

【6】高血圧(脳出血・心血管系疾患)
 長期の透析患者が増加していることに伴い脳出血・心血管系疾患も増大しており、これらの疾患は一番高い死亡原因になっています。

 高血圧の原因は現在も多様な角度から研究されていますが、透析患者の高血圧の大きな特徴は透析間での体重増加やドライウエイトの設定が大きく影響される点です。
 透析患者の場合の高血圧の予防と治療ですが、透析患者以外の高血圧の人以上に注意が必要です。即ち、
(1)日常生活上の留意点
 ①食生活での塩分を控える。
 ②睡眠不測・過度の疲労は避ける。
 ③入浴は熱い湯と長風呂は避ける。
 ④冬季での衣服調整
 ⑤禁煙
(2)降圧剤服用の留意点
 ①指示通り服用しているかの確認をする。
   副作用が出たからといって勝手に止めない。(主治医と要相談)
 ②自宅にて時間を決めて血圧を測定する癖をつける。
   特に、昇圧症状(頭痛・吐き気等)のあるときに測定するようにする。
 ③透析患者の状況(起立性低血圧・透析時低血圧の有無)に合った降圧剤を選択する。
   以上の点に加え、透析患者の高血圧対策には、「適切なドライウエイトの設定」「透析
   間の体重増加はドライウエイトの3~5%以下の徹底」「適切な透析方法の選択」が
   あります。

 尚、ここで透析患者に用いられる降圧薬について、少し詳しく言及しておきましょう。降圧薬は何十種類も発売されています。それらのうちどの降圧薬をどのくらいの量処方するかは、主治医の判断に委ねられます。即ち、降圧薬を使用する場合、その代謝排泄経路、蛋白結合率、透析性の有無、副作用を考慮する必要があります。加えて、血液透析といういわば降圧治療を有効に使い、透析時血圧低下を助長しないように投与時間を工夫し、週間投薬スケジュールを作成します。透析日と非透析日では内容が異なり、透析日の透析前には降圧薬を減量または中止したりします。長時間作動性薬と短時間作動性薬を組み合わせ、透析中に作用のピークがこないようにします。次に、透析患者に用いられる主な降圧薬を種類別に整理して載せておきます。透析患者に用いる場合、第一選択薬としては、「カルシウム拮抗薬」「アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬」「ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害剤)」、第二選択薬として、「α1遮断薬」「β遮断薬」が多く用いられます。

(1)カルシウム拮抗薬(「CCB」)
カルシウム拮抗薬は、肝臓で代謝され消失するため、透析患者において、用量を調節する必要はありません。通常、何らかの刺激により、細胞膜のカルシウムチャネルが開くことで、カルシウムが平滑筋細胞内に流入し、それをきっかけに血管が収縮します。カルシウム拮抗薬は細胞内へのカルシウムに流入を抑制し、その結果、刺激による血管収縮が起こらず、血管の抵抗が軽減し、血圧が低下します。狭心症等の治療にも用います。
一般名 製品名 投与量
(mg)
投与
間隔(hr)
主排泄路
(透析性)
特徴・副作用
ニフェジピン アダラート
アダラートS
※アダラートL錠
 (10・20mg)
※アダラートCR錠
(10・20・40mg)
10~30 8~12
(1日)
1~3回

(-)
頭痛・下腿浮
腫・顔面紅潮
・めまい・動悸
・便秘・歯肉増
生・肝機能値
異常等
ニルバジピン ニバジール錠
(2・4mg)
4~8 12
(1日)
2回

(-)
マニジピン カルスロット錠
(5・10・20mg)
5~20 24
(1日)
1回

(-)
アムロジピン アムロジン錠
(2.5・5mg)
ノルバスク錠
(2.5・5mg)
2.5~5 24
(1日)
1回

(-)
<注>上表※印は「除放性剤」即ち、薬の効果が長時間続くように工夫された薬剤のことです。

(2)アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(「ARB」)
血圧を上げる体内物質「アンジオテンシンⅡ(AⅡ)」は、「アンジオテンシン変換酵素(ACE)」により作られ、2つの受容体即ち「AT1」と「AT2」に結合します。両者は相互に拮抗的に作用しますが、「アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬」は、「AT1」受容体に選択的なブロッカーで、「AT1」受容体の血管収縮、細胞増殖促進等の作用を抑えるのみならず、これに拮抗する「AT2」受容体の血管拡張、細胞増殖抑制等の作用を増強し、血圧が低下します。心不全等にも有効であり、咳の副作用がほとんどありません。
一般名 製品名 投与量
(mg)
投与
間隔(hr)
主排泄路
(透析性)
特徴・副作用
ロサルタン ニューロタン錠
(25・50mg)
50~100 24
(1日)
1回
肝(腎)
(-)
めまい・頭痛
・動悸・肝機能
値異常等
カンデサルタン ブロプレス錠
(2・4・8・12mg)
2~4 24
(1日)
1回
肝(腎)
(-)

(3)ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害剤)
 レニン-アンジオテンシン系(RA系)において、「アンジオテンシンⅡ(AⅡ)」の生成を促進させる酵素を阻害することで、「アンジオテンシンⅡ(AⅡ)」の産生を抑えます。しかし、同時に「ブラジキニン」や「サブスタンスP」の分解を抑制するため、空咳を起こす可能性があります。また、心不全等にも有効です。
一般名 製品名 投与量
(mg)
投与
間隔(hr)
主排泄路
(透析性)
特徴・副作用
カプトプリル カプトリル錠
(12.5・25mg)
カプトリル細粒
※カプトリル-R
6.25~
37.5
8~12
(1日)
2~3回

(+)
高K血症・空
咳・浮腫・貧
血・肝機能値
異常等
エナラプリル レニベース錠
(2.5・5・10mg)
1.25~5 24
(1日)
1回

(+)
リシノプリル ゼストリル錠
(5・10・20mg)
ロンゲス錠
(5・10・20mg)
2.5~5 24
(1日)
1回

(+)
テモカプリル エースコール錠
(1・2・4mg)
1~4 24
(1日)
1回
腎・腎
(?)
<注>上表※印は「除放性剤」即ち、薬の効果が長時間続くように工夫された薬剤のことです。

(4)α1遮断薬
肝代謝であり、透析患者において用量を調節する必要はありません。動静脈系いずれの血管にも作用し、抹消血管を拡張作用させたり、心臓の負荷を軽減します。また、脂質代謝の改善や血糖を低下させるなどの代謝系における利点もあります。しかし、特徴である動静脈の拡張により、起立性低血圧や失神等が起こりやすいのが問題です。α1遮断薬には、高血圧症だけでなく、膀胱括約筋を弛緩する作用によって、前立腺肥大症に伴う排尿困難に適応が認められている薬剤もあります。
一般名 製品名 投与量
(mg)
投与
間隔(hr)
主排泄路
(透析性)
特徴・副作用
ドキサゾシン カルデナリン錠
(0.5・1・2・4mg)
1~4 24
(1日)
1回

(-)
起立性低血
圧・立ちくら
み・めまい・
頭痛・動悸等

(5)β遮断薬
β遮断薬は、水溶性の高い薬剤から脂溶性の高い薬剤まで、薬物動態は様々で、透析患者では水溶性薬剤の半減期が延長するため用量の減量が必要です。β遮断薬は、高血圧症以外にも、狭心症や不整脈に対しても適応が認められている薬剤が多いので、高血圧症に狭心症等を合併しているようなケースではメリットとなります。
一般名 製品名 投与量
(mg)
投与
間隔(hr)
主排泄路
(透析性)
特徴・副作用
メトプロロール セロケン錠
(20・40mg)
※セロケンL錠
ロプレソール錠
(20・40mg)
※ロプレソールSR錠
60~120 8~12
(1日)
2~3回

(-)
喘息誘発・徐
脈・房室ブロ
ック・耐糖能
障害・悪夢・
脂質代謝異
常・血小板減
少等
アテノロール テノーミン
テノーミン25
6.3~12.5 24
(1日)
1回

(-)
<注>上表※印は「除放性剤」即ち、薬の効果が長時間続くように工夫された薬剤のことです。

(6)中枢性交感神経抑制薬
中枢神経に作用して、血管運動中枢におけるα2受容体を刺激し、これによって交感神経のインパルスの放出を抑制して血圧が低下します。そもそもα2受容体は神経末端のシナプス前膜に分布し、これが活性化されると、その神経末端からのア ドレナリンの分泌が抑制されます。つまりアドレナリンの分泌に対して負のフィードバッグを行う受容体です。即ち、交感神経の作用を抑制、血圧低下、レニン分泌が抑制されます。
一般名 製品名 投与量
(mg)
投与
間隔(hr)
主排泄路
(透析性)
特徴・副作用
メチルドパ アルドメット錠
(125・250mg)
250~
1,500
12~24
(1日)
1~3回
腎(肝)
(-)
口渇・肝機能
障害・便秘等
グアナベンズ ワイテンス錠 8~16 12
(1日)
2回

(?)
眠気・めまい・
口渇等
クロニジン カタプレス錠
カタプレス錠75
0.112~
0.225
8
(1日)
3回
腎・肝
(-)
鎮静作用・口
渇・食思不振等

(7)血管拡張薬
血管の平滑筋に直接作用して血管を広げます。そうすると血液の抵抗が減り、血圧が低下します。
一般名 製品名 投与量
(mg)
投与
間隔(hr)
主排泄路
(透析性)
特徴・副作用
ヒドララジン アプレゾリン錠
(10・25・50mg)
10%アプレゾリン散
30~120 8~12
(1日)
3~4回

(-)
頭痛・動悸・
顔面紅潮等

尚、血圧関連資料として、「平均血圧」と「脈圧」とは何か、何が分かるのかを添付(クリック・PDFファイル)しておきます。もう一種類、2009年1月16日付改定の日本高血圧学会における「高血圧治療ガイドライン」の概要を添付(クリック・PDFファイル)しておきます。

【7】皮膚のかゆみ
 皮膚のかゆみは透析患者のに非常に多くみられる合併症で、私もときどき悩まされます。
 この原因は、
 ・二次性甲状腺機能亢進症
 ・腎機能正常者に比べ発汗や皮脂分泌低下による皮膚の保湿機能低下
 ・ビタミンA過剰症
 ・微量元素の異常(高リン血症、高カルシウム血症、高マグネシウム血症、低亜鉛血症)
 ・活性酸素の皮膚での増加
 等が挙げられます。
 治療としては、抗ヒスタミン剤の内服や保湿を保つような外用薬を使用します。それでもかゆみ抑えきれない場合は上記の原因の有無を評価してみる必要があります。
 また、かゆみは透析中にも現れ、むしろ一般的に透析中の方が増強する傾向があります。

以上の内容を含め、改めて透析患者の「皮膚のかゆみ」の原因と対処法について次表を載せておきます。
原 因 対処法
1.局所的因子  
かゆみ感受性の亢進
・乾燥(角質水分量の低下、発汗減少)
・皮膚PTHの上昇
・痒覚神経のかゆみ閾値の低下  
かゆみ伝達物資の産生過剰
・ヒスタミン、セロトニン、サプスタンスP、インターロイキン2、プロスタグランジン、血小板活性化因子 等
保湿剤、清拭、清潔の保持、外用薬(抗ヒスタミン薬・酸性水・ステロイド・酸性クリーム)


止痒内服薬(抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬等)
2.中枢性因子   
・脳内オピオイドペプチドの産生過剰
オピオイド拮抗薬
オピオイド受容体k作動薬
3.尿毒症性因子   
・中分子量物質の蓄積、PTH過剰、血中無機イオン(Ca.Mg.P)の蓄積
大量液置換HDF、経口吸着療法用活性炭、2°HPT治療
4.透析関連因子  
・透析不足、へパリン、消毒薬
・透析用器材の減菌(特にEOG)
・透析膜の生体適合性(かゆみ伝達物質の産生)
・絆創膏等
適正透析、透析用器材や薬品の変更
5.心因性因子 生活指導、精神安定薬
 尚、中枢(脳)のかゆみを感じる部位に働いてかゆみを抑える働きがあるとされている血液透析患者のそう痒症(かゆみ)治療に大きな貢献が期待できる新薬剤が平成21年3月24日に発売されましたので、次の通り概略を紹介しておきます。
①商品名:レミッチカプセル2.5μg
②一般名:ナルフラフィン塩酸塩
③効能又は効果:血液透析患者におけるそう痒症の改善
       (既存治療で効果不十分な場合に限る)
④用法及び用量:通常、成人には、ナルフラフィン塩酸塩として1日1回2.5μgを夕食後又は就寝前に経口投与する。尚、症状に応じて増量することができるが、1日1回5μgを限度とする。
⑤発売日:平成21年3月24日
⑥製造販売元:東レ株式会社
⑦販売元:鳥居薬品株式会社
(本薬剤の詳細は「おくすり110番」のこのページ(クリック)を参照して下さい。)

【8】足のムズムズ感
この症状は透析の合併症の一つである「Restless legs 症候群」だと考えられます。この症候群は、腕や足に「虫が這うような」「焼けるような」「チクチクするような」と表現されるような異常感覚を覚え、四肢を動かしたい欲求にかられます。腕や足の異常感覚を軽くするために、歩き回ったり、腕や足をバタバタさせたり、周囲の人からは落ち着きがなく見えるような行動をとります。この症状は夜間や安静時に増悪しますので、なかなか寝付けなかったり、浅い眠りになったりで、日中に疲労感や眠気を覚えることが多くなります。この「ムズムズ脚」をしょっちゅう自覚する人は、透析患者の何と10人に1人という高頻度です。私もこれには若干悩まされています。
原因とメカニズムはよく解っていません。ビタミン、鉄、葉酸等が欠乏した状態、尿毒症、糖尿病、アミロイド、薬剤、感染症等が挙げられていますが、確定することは困難です。  
治療法については、まず薬によって起こっていると考えられるものは、薬剤を中止することで症状の改善が期待できます。
尿毒症によるもの(十分に透析が出来ていない)と考えられるものは、頻回に透析を行ったり、血液浄化方法を変更(HDF)したり、透析膜を変更したりすることで症状が改善することがあります。
他に、ドーパミン作動薬やベンゾジアゼピン系薬剤の服用、鉄やビタミンの補給が挙げられていますが、どれも決定的な治療法ではありません。なかなか症状が改善しない一方、解決方法がみつかって現在は症状がほとんどなくなっている場合もあります。 

【9】皮膚色素沈着
 慢性腎不全ではその広範な代謝異常という性格から、慢性腎不全の半数以上に特色のある黄褐色から黒褐色(どす黒い)などの皮膚症状が起こります。
 皮膚色素沈着はこれだけで生命を脅かすこともありませんし、かゆみなどとも違い何ら苦痛も伴いません。これといった治療法・改善策も特に見当たりませんが、日光を避ける・ストレスを溜めない・皮膚の清潔・栄養バランスの良い食事・充分な休養等といった日常生活に注意し、全身状態を悪化させないことが予防につながります。それから透析導入初期から、しっかり透析(透析時間をできるだけ延ばし、血流量も上げられるところまであげるなど)すると、皮膚色素沈着はそれだけ防ぐことができると考えられます。(因みに、私の場合現時点ほとんど肌の色は黒くなっておりません。)

【10】虚血性腸炎
 「虚血性腸炎」は、長期透析患者に限って発症するものではありませんが、重篤な合併症でありますので、このコーナーで取り上げておきたいと思います。
一般には大腸によく発生するので「虚血性大腸炎」という言葉がありますが、透析患者の場合は、この状態が小腸にも起こるので「虚血性腸炎」と言っています。透析中及び透析後に腹痛を訴える透析患者はよく見られますが、多くの場合一過性であることが普通ですが、なかには鎮痛剤の投与でも治まらないひどい腹痛があります。この中に、「虚血性腸炎」が含まれることがあります。
虚血とは、血圧及び循環血液量の低下を主因として、字が示すようにある部分に血液が行かなくなることを言います。この状態が続くと腸は壊死に陥ります。具体的な症状としては、突然の又は徐々に増悪する腹痛に引き続き、下痢、下血、嘔吐、腹満感、発熱、腹壁防御反応、腸雑音減弱を示します。「虚血性腸炎」では、すべての患者に腹痛があり、30%の患者に下血があります。透析後に腹痛があり下血を認めればこの病気を一番に疑います。
画像診断等により「虚血性腸炎」と診断された場合は、緊急開腹術を念頭において腹膜炎治療が行なわれます。

 
以上の合併症の他にも、透析患者は免疫能力低下による結核等の感染症や悪性腫瘍にもかかりやすい傾向にあります。
予防としては適切な透析を行い、栄養状態をよくする以外にありません。また、早期発見が治療の成否を決めるので定期的な検査が必要となります。