Q92. 透析中の薬剤は、なぜ静脈側から入れるのですか。

2006/08/10 (Thu)
A.透析中の薬剤投与は、「安全性」と「透析性」で判断されます。
【1】まず、「安全性」の観点からですが、動脈側即ち血液ポンプの手前から薬剤を投入してしまうと、注入が完了しても血液ポンプの吸引力即ち陰圧の影響を受け、空気が混入してしまう恐れがあります。また、動脈側の血液ポンプの手前から点滴ポンプを使用した場合でも、血流が悪くなったりよくなったりを繰り返すことで、点滴ラインに血液が逆流して凝固や沈殿を起こしてしまうことがあります。従って、薬剤を安全に投与するには、静脈エアトラップチャンバー液面調整ラインもしくは静脈エアトラップチャンバー手前のサンプリングポートより、点滴ポンプやシリンジポンプを使用して注入する方法がとられます。
【2】次に、薬剤の「透析性」の観点から考えますと以下の通りです。現在臨床使用されているや薬剤は、ほとんどが分子量200〜1,500ダルトン(Da)の範囲に入ります。一方、透析で除去される物質は分子量に依存(分子量と物質の大きさは比例関係)しており、現在主流のHPMダイアライザーでは1,000ダルトン(Da)以下の物質は効率よく除去されます。一般的に、薬剤は血中に入ると蛋白(アルブミン)と結合して組織に運ばれます。蛋白(アルブミン)と結合してしまえば、分子量が数万ダルトン(Da)になり透析性がほとんどなくなりますが、動脈側から薬剤を投入してしまうと、多くが蛋白と結合する前にダイアライザーを通過即ち透析されてしまって、体内で薬剤本来の効力を発揮することができなくなります。従って、血中濃度を維持したい薬剤や、昇圧(昇圧薬<持続投入>)、血中浸透圧維持(グリセリン、デキストラン等<開始から2〜3時間点滴静注>)を期待して投与する薬剤は、静脈側から投与しなければ十分な効果が期待できないというわけです。また、静脈側から投与するといっても、透析開始初期に投与すれば当然透析の影響を受けますので、静脈注射可能な薬剤(エポ、活性型ビタミンD製剤等)は、透析終了時に静脈側から注入すれば、透析による除去の影響を受けずに血中濃度を上げることができます。点滴静注が必要な抗生物質等の薬剤は透析終了後または終了30分程度前から点滴を開始し、なるべく透析除去の影響を避けるようにします。
【3】ただ、動脈側から投与する薬剤もあります。
@輸血
照射MAP等の輸血では、X線による血球の破壊によって輸血バッグ内は高カリウム状態になっていますので、透析で電解質補正(カリウム除去)した方が安全というわけです。
A血圧低下時の補液
透析中血圧が低下した場合等には、生理食塩水の補液を行うことがありますが、これは急速なボリューム負荷が目的ですので、透析の血液ポンプを利用するために動脈側から投与することになります。
B抗凝固剤
血液は異物に接触すると凝固を始めてしまうので、体外に導かれたら速やかに抗凝固剤を投与する必要があります。「メシル酸ナファモスタット」のような透析性のある抗凝固薬でも動脈側(エアトラップチャンバー前)より投与する必要があります。

 以上のように透析施行時における薬剤の投与は、安全性の観点からも、透析性の観点からも、特殊な薬剤以外は静脈側から投与します。


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