Q71.透析患者の「皮膚掻痒症」の原因はわかっているのですか。

2005/07/07 (Thu)
A.角質層はバリアの役目をするのですが、透析患者では角質層内の水分が著明に減少しており、これはアトピー患者さんにも共通します。また、老人の乾皮症に類似しており、老化現象に近いと言われています。多変量解析(下記<注>参照)によれば、
 @BUNが高い
 Aβ2―MGが高い
 BKt/Vが低い
ことが「皮膚掻痒症」の原因になることがわかっていますから、透析不足が「尿毒症性掻痒症」の1つの原因と考えられます。さらに、
 @血清Ca濃度の上昇
 A血清P濃度の上昇
 Bインタクト-PTH濃度の上昇
も皮膚組織内でのリン酸カルシウムの微細結晶形成(「ハイドロキシアパタイト」として骨や歯以外の様々なところに沈着)により痒みを引き起こす原因と考えられています。そのため、副甲状腺摘出術直後の透析患者では著明な掻痒感の改善がみられることが多いのですが、その後の血清Ca濃度の上昇とともに再発します。ヘマトクリット値が20%未満の高度貧血も痒みの原因となっています。また、特に高齢の透析患者では乾皮症が原因のことも多く、この場合は、尿素軟膏(「ウレパール」)、へパリン類似物質軟膏(「ヒルドイド」で改善することがあります。しかしながら、以上の他にも様々な原因(本HP左コンテンツ「人工透析の合併症」の【7】参照)が考えられており、透析患者の「皮膚掻痒症」の多くは単一の薬物投与で治癒することは困難です。
 実際に透析患者の「皮膚掻痒症」にはどのような薬剤が使われているのでしょうか。外用薬として、抗ヒスタミン剤軟膏、クロタミトン軟膏(「オイラックス」)、院内製剤の2%メントールアルコール、市販されているヨモギローション、カプサイシン軟膏、あるいは内服薬として、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、漢方薬(「温情飲」「当帰飲子」「ヨクイニン」)、ノイロトロピン注、強力ネオミノファーゲンC等を試し、透析患者本人の気に入ったものを続けているのが現状のようです。そして、「皮膚掻痒症」が悪化すれば強力な外用ステロイド剤を使わざるを得ません。
 それからいささか難しくなりますが、脳内の痒みの因子として、メチオニンーエンケファリン、ロイシンーエンケファリンやβエンドルフィンが知られており、これらのオピオイドペプチドはそれぞれ特異的な受容体に結合することによって掻痒感を生じます。開発中の新薬としてオピオイド受容体μアゴニストやκアゴニスト(「東レTRK820」)の臨床治験が進んでおり、欧米ではその有効性が証明されています。
 尚、日常のスキンケア製品を1つ紹介しておきます。痒みの強い透析患者の皮膚のpHは上昇しています。これはアトピーや老人性乾皮症でも同様です。「pH4程度の酸性クリーム」を用い、日常のスキンケアを行うことによって、角質層の水分含量が上昇して痒みが軽減することがあります。また、肌の潤いを補給してあげることも大切で、「ザーネ」という軟膏をお勧めします。この薬剤は、保険が適応されますし、安全性も高いです。
 最後に、中枢(脳)のかゆみを感じる部位に働いてかゆみを抑える働きがあるとされている血液透析患者のそう痒症(かゆみ)治療に大きな貢献が期待できる究極の新薬剤が平成21年3月24日に発売されましたので、次の通り概略を紹介しておきます。
@商品名:レミッチカプセル2.5μg
A一般名:ナルフラフィン塩酸塩
B効能又は効果:血液透析患者におけるそう痒症の改善
(既存治療で効果不十分な場合に限る)
C用法及び用量:通常、成人には、ナルフラフィン塩酸塩として1日1回2.5μgを夕食後又は就寝前に経口投与する。尚、症状に応じて増量することができるが、1日1回5μgを限度とする。
D発売日:平成21年3月24日
E製造販売元:東レ株式会社
F販売元:鳥居薬品株式会社
本薬剤の詳細は「おくすり110番」の次の該当ページURLをクリックしてご覧下さい。
http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se11/se1190015.html

 <注>多変量解析とは。
複数の変数(項目・属性・次元数)を持つデータ(多変量データ)を利用し、その変数間の相互の関係性をとらえるために使われる統計的手法の総称。重回帰分析や判別分析、正準相関分析、主成分・因子分析、クラスター分析、多次元尺度法、フェース分析、数量化分析、コンジョイント分析などの手法がある。 複雑なデータが持つ傾向や特徴を“要約”したり、結果に影響する相関関係を明らかにして“原因発見”や“推定・予測”を行ったり、あるいは因果関係のモデル化等に有効である。


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