Q48.副甲状腺内エタノール注入法「PEIT(ペイト)」って何ですか。

2004/09/09 (Thu)
A.二次性副甲状腺機能亢進症に対する外科的治療法の一つです。
 エタノールはアルコールの一種で、細胞を殺す働きがあり、肝臓癌等にエタノールを注射してガン細胞を殺す治療法が以前から行われてきました。皮膚の上から、ガン細胞をめがけて針を刺し、注射器に入れたエタノールを針からガン細胞に直接注入する治療法で、英語の頭文字をとってPEIT(ペイト)と呼ばれています。この技術を副甲状腺に応用したのが副甲状腺ペイト即ち「副甲状腺内エタノール注入法」です。(エタノールの代わりに静注用ビタミンD製剤を用いる場合もあります。)
 この「副甲状腺内エタノール注入法」の具体的方法、長所及び短所は次の通りです。
《具体的方法》
大きく腫大した頚部の副甲状腺を超音波で位置を確認しながら、首の皮膚から針を刺して、副甲状腺の中に進めます。確実に副甲状腺に入ったことを確認後、エタノールを注射器から針を介して副甲状腺に直接注入します。注入されたエタノールは副甲状腺細胞を死滅させるので、副甲状腺はホルモン(PTH)を作ることができなくなります。実際には1回の注入では副甲状腺を十分に破壊できないので、何日かかけ、何回かに分けて少しづつエタノールを注入して副甲状腺を確実に破壊します。
《長所》
@副甲状腺摘出手術(PTX)<詳細このQ&AのQ28のA参照>のように全身麻酔を必要としませんので、麻酔をすることが危険な全身状態の悪化した患者や高齢の患者にも安心して行うことができます。
A原則として入院して行いますが、病院によっては、透析毎に外来で治療するところもあります。
《短所》
@エタノールの一部が副甲状腺に入らずに漏れ出す場合があり、漏れると副甲状腺以外の周りの細胞に悪影響を及ぼします。(一番恐いのは、物を飲み込む神経である反回神経を傷つけることです。)また、エタノールが漏れると痛みがひどかったり、副甲状腺摘出手術(PTX)が必要になった時に手術が難しくなります。
A副甲状腺が頚部以外の場所にある場合(異所性副甲状腺)には、超音波で見つけられなかったり、針をさすことが難しかったりして、副甲状腺内エタノール注入法で治療することができません。(副甲状腺内エタノール注入法の前には、副甲状腺シンチグラムという検査で、頚部以外の異所性副甲状腺の有無を確認しておく必要があります。)
B副甲状腺内エタノール注入法後は、活性型ビタミンD製剤の注射等の内科的治療を継続して、再び二次性副甲状腺機能亢進症が悪化しないように注意する必要があります。
 尚、副甲状腺が体積で500ミリリッポウメートル以上、直径で10mm以上が、外科的治療法移行の一つの目安です。長年パルス療法をしても副甲状腺ホルモン値が下がらない・大きさが小さくならない・カルシウムやリンの数値が下がらないなどのケースではパルス療法を諦めて、上記の
 1.副甲状腺エタノール注入法(PEIT)
  or
 2.副甲状腺摘出手術(PTX)
のどちらかを選択するべきでしょう。
 即ち、内科的治療(活性型ビタミンD製剤による治療等)に抵抗する「高PTH血症(インタクト-PTH>500pg/ml)が持続し、「高Ca血症(補正Ca>10.0mg/dl)」、または「高P血症(P>6.0mg/dl)」が存在する場合は、副甲状腺インターベンション(副甲状腺摘出術<PTX>または経皮的エタノール注入療法<PEIT>)を考慮すべきであると言われています。

尚、「二次性副甲状腺機能亢進症」に対する新治療薬「レグパラ錠」を次に紹介してきましょう。
 2007年10月19日、二次性副甲状腺機能亢進症治療薬のシナカルセト塩酸塩(商品名:「レグパラ錠25mg、同75mg」)が製造承認を取得しました。承認された適応は「維持透析下における二次性副甲状腺機能亢進症」です。薬価収載後に発売されました。(平成20年はじめ頃)
 念のため、二次性副甲状腺機能亢進症とは、慢性腎不全の進行に伴って発症する、透析患者にとって主要な合併症の一つであり、副甲状腺から副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰に産生・分泌された状態を言います。特に維持透析下では、腎機能低下によるリン貯留やビタミンD活性化障害のために、二次性副甲状腺機能亢進症が頻発することはご承知の通りです。PTHには骨からのカルシウム流出(骨吸収)を促進する作用があるため、これが過剰産生・分泌されることで、骨痛や関節痛を伴う「線維性骨炎」や、動脈硬化などの心血管系障害の原因にもなる「異所性石灰化」(骨以外に石灰化が起こる病態)を引き起こします。
 従来から、二次性副甲状腺機能亢進症の治療には、不足する活性型ビタミンDを補う目的で、活性型ビタミンD製剤であるカルシトリオール(商品名:ロカルトロールほか)などが使用されています。しかし、活性型ビタミンD製剤は、PTH抑制効果は確実ではあるものの、同時に小腸からのカルシウム吸収能も上昇させるため、投与量を増やすと高カルシウム血症を引き起こす危険があり、PTHを抑制するために十分な量を投与できない場合がありました。
 これに対し、「シナカルセト」は、副甲状腺細胞表面のカルシウム受容体に直接作用することで、血清カルシウム値を上昇させずにPTHの分泌を抑制するとともに、血清リン値をも低下させる薬剤です。その作用機序から、カルシウム受容体作動薬(alcimimetics)とも呼ばれています。海外では、米国を始め、EU、オーストラリアなど30カ国以上で既に承認されています。日本では、2000年から血液透析患者を対象とした臨床試験が行われており、ようやく承認となりました。
 今後、「シナカルセト」は、透析患者の二次性副甲状腺機能亢進症の治療に多く使用されていくものと考えられますが、海外の試験では、長期使用により悪心や嘔吐など、消化器関連の副作用症状が出現したことが報告されています。(ただし、投与を中断するほどのものではない) こうしたことから、「シナカルセト」を使用する際は、当初は少量から投与を開始し、患者の状態や検査データなどを確認しながら徐々に増量していくことが必要と考えられます。


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