Q44.副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌状況をみる「インタクト―PTH」がこのところ健常者の基準値以内でずっと推移しています。これって、透析患者の場合「低回転骨(無形成骨)=ABD=」なんでしょうか。(ついでに、新しい「二次性副甲状腺機能亢進症」の治療薬についても教えて下さい。)

2004/06/06 (Sun)
A.私の場合がまさにこれでこのQ&Aを作成時には、主治医の先生から「低回転骨(無形成骨)=ABD=」と診断されております。従って、私の場合の現状をまず説明いたします。
 私のCa・P・ALP・iーPTHは、いつもCa・P・ALPは透析患者の目標値の範囲内にあり、iーPTHは透析患者の管理目標値の範囲内を出たり入ったりしています。(それぞれの健常者の基準値と透析患者の管理目標値については本HPの「私の各種検査データ」コンテンツ参照)
 また、このQ&Aの作成時の私の使用リン吸着剤は「沈降炭酸カルシウム(粉)」1日6g(現在は「リンゴ酢カルシウム」1日1.5g、「ホスレノールチュアブル錠」1日1.5g)、活性型ビタミンD製剤は服用休薬中でした。(現在は、活性型ビタミンD製剤は、休薬か1日もしくは1日おきに1錠適宜服用) こうした状況の中で、平成16年5月3日に別の骨代謝マーカーの一つである「オステオカルシン(OC)=IRMA法による基準値:3.1〜12.7ng/ml、透析患者の目標値:30〜80ng/ml=」の血液検査を行いました。その結果は、予想通りこれまた「10.0ng/ml」と健常者の正常範囲内でした。なので、冒頭の記述通りと当時は「低回転骨(無形成骨)=ABD=」と診断されたわけです。
 一般に透析患者の場合、正常な骨回転を維持するためには、iーPTHは150前後(管理目標値:60〜240pg/ml)とも言われていますし、平成24年に公表された「日本透析医学会」の「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン(CKD−MBD)」によれば、これまでより上限値が高くなり「60〜240pg/ml」が好ましいとされています。いつも下限値より低い透析患者は、副甲状腺ホルモン(PTH)を高くしたいということになるのですが、これが実際には難しいのだそうです。副甲状腺は血中のカルシウムが低くなってくると、盛んに副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌するようになるわけですから、血清カルシウム濃度を正常値よりも低くしてしまえばいいわけですが、これがなかなか理屈通りにはいかないようです。
 私のかつてのような「低回転骨(無形成骨)=ABD=」であることのディメリットは、骨でカルシウムやリンが利用されにくいため、カルシウムとリンのコントロールが困難(「異所性石灰化」が起きやすい)になりやすいことと、骨折をしたときに折れた骨がつきにくいことが言われてはいますが、前者はともかく後者については、実際にiーPTHが低い人で骨折してしまったときに治らなくて困ったという話はあまり聞かれないようです。この透析患者の「低回転骨(無形成骨)=ABD=」の問題はその対策も含めまだよく解っていないところもあり、特効的な手だてがないのが現状です。
 「低回転骨(無形成骨)=ABD=」だからといってあまり心配する必要はなく、リンとカルシウム(特にリン)が上がらないように一層注意すること以外には経過を見ていくしかないのかなと認識しています。糖尿病から透析を始めた人や高齢透析患者に「低回転骨」が多いということは事実のようですので、この点つけ加えておきます。その理由は、糖尿病のある場合は高血糖により、高齢者の場合は全般的に内分泌機能低下に伴い、それぞれ副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌が抑制されることなどが考えられています。特に、糖尿病透析患者においてはPTH分泌が抑制されるという報告が多いですが、透析期間が長期間になるとやはり副甲状腺機能亢進症をきたしてくることが多いです。また、実際に「低回転骨(無形成骨)=ABD=」が増加している最も大きなきっかけは活性型ビタミンD製剤等の普及によって透析患者が低カルシウム血症の脅威から開放されたことであると言われています。「低回転骨(無形成骨)=ABD=」は骨代謝の立場からは有害であるとする意見が多いですが、一方で「低回転骨(無形成骨)=ABD=」に至る程度の副甲状腺機能は副甲状腺の予後の観点からは好ましいと擁護する声もあります。
 尚、参考までに、全腎協の機関紙「ぜんじんきょう」NO.205より、「PTH濃度が低い患者の特徴と異常」及び「PTH低値の予防と治療」について、抜粋・整理して次に載せておきます。
《PTH濃度が低い患者の特徴と異常》
 @高齢者、糖尿病、透析歴の短い患者に多い。
 A栄養状態が悪い、全身状態が不良の患者に多い。
 B骨折からの回復が遅れる、背骨の圧迫骨折が増える。
 C異所性石灰化、血管石灰化を起こしやすい。
《PTH低値の予防と治療》
 @食事量(特に蛋白質)や活動性をできるだけ増やす。
 A低リン血症があればリン吸着剤を減量する。高カルシウム血
  症があればカルシウム製剤や活性型ビタミンD製剤を減量し
  たり、カルシウムを含まない塩酸セベラマーや炭酸ランタン
  や他の非Ca系リン吸着剤に変更する。
 B透析液のカルシウム濃度が3.0mEq/lであれば、2.5mE
  q/lのものに変更する。
 CビタミンK等、骨の減少を防止する薬剤の服用(広く認めら
  れているものではありません。)
 <注>
足りないPTHを注射したり、PTHを直接増加させるような薬剤は現在開発されていません。尚、逆に、副甲状腺Ca感受性受容体を選択的に活性化する低分子化合物で、Ca濃度やP濃度は上昇させずにPTH濃度を低下させる新たな「Ca受容体作動薬(calcimimetics<カルシウムミメティクス>)」に期待が持たれています。尚、わが国でも平成20年初めに発売の「Ca受容体作動薬」即ち「二次性副甲状腺機能亢進症」の治療薬については下記<参考B>をご覧下さい。
 
 <参考@>副甲状腺ホルモン(PTH)とは。
84個のアミノ酸からなるペプチドホルモンでカルシウム(Ca)、リン(P)を調節する働きを持つ。血清Pが高くなると、PTHが分泌されて尿細管におけるPの再吸収を低下させ、尿中へのP排泄を増加させる反応が生じる。また、低Ca血症が持続するとPTHの分泌が盛んになり、骨を溶かしてCaを一定の値に保とうとするが、そのために骨はもろくなる。PTH分泌の亢進により骨が溶けると血清P値も上昇し、それがまたPTHを増やすという悪循環になる。また、CaとPがともに高い状態が続くと関節の周囲や動脈、肺胞、眼等にリン酸Caが沈着する。(これがいわゆる「異所性石灰化」)
 PTHを見る指標として、一般には「インタクト-PTH」が用いられているが、この「インタクト-PTH」は、PTHの全長(1−84)のみを検出すると考えられており、現在までこの測定法が主流になっているが、1998年に本来のPTH(1−84)以外に他の6種類のフラグメントも測定してしまっていることが明らかにされた。そこで、1999には本当に完全な(1−84)PTHを測定する方法が確立され、「whole−PTH」と呼ばれている。この 「whole−PTH」は、透析患者において、「インタクト-PTH」の約7割程度と常に低くなる。(「whole−PTH」の基準値は「9〜39pg/ml」)、透析患者の管理目標値は「35〜150pg/ml」)
 尚、わが腎クリニックにおいても、平成17年11月7日の血液検査より、「インタクト-PTH(アレグロインタクトPTH)」から「whole−PTH(Bio intact PTH)」に変更になりましたが、現在は、「インタクト-PTH」に戻っています。

 <参考A>「低回転骨(無形成骨)=ABD=」の治療について
「低回転骨(無形成骨)=ABD=」の治療について、「透析百科」の該当ページを次に紹介しておきます。
http://touseki.loglog.jp/05.13.htm

 <参考B>「二次性副甲状腺機能亢進症」の治療薬について
2007年10月19日、二次性副甲状腺機能亢進症治療薬のシナカルセト塩酸塩(商品名:「レグパラ錠25mg、同75mg」)が製造承認を取得しました。承認された適応は「維持透析下における二次性副甲状腺機能亢進症」です。薬価収載後に発売されます。平成20年はじめに発売されました。
 念のため、二次性副甲状腺機能亢進症とは、慢性腎不全の進行に伴って発症する、透析患者にとって主要な合併症の一つであり、副甲状腺から副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰に産生・分泌された状態を言います。特に維持透析下では、腎機能低下によるリン貯留やビタミンD活性化障害のために、二次性副甲状腺機能亢進症が頻発することはご承知の通りです。PTHには骨からのカルシウム流出(骨吸収)を促進する作用があるため、これが過剰産生・分泌されることで、骨痛や関節痛を伴う「線維性骨炎」や、動脈硬化などの心血管系障害の原因にもなる「異所性石灰化」(骨以外に石灰化が起こる病態)を引き起こします。
 従来から、二次性副甲状腺機能亢進症の治療には、不足する活性型ビタミンDを補う目的で、活性型ビタミンD製剤であるカルシトリオール(商品名:ロカルトロールほか)などが使用されています。しかし、活性型ビタミンD製剤は、PTH抑制効果は確実ではあるものの、同時に小腸からのカルシウム吸収能も上昇させるため、投与量を増やすと高カルシウム血症を引き起こす危険があり、PTHを抑制するために十分な量を投与できない場合がありました。
 これに対し、「シナカルセト」は、副甲状腺細胞表面のカルシウム受容体に直接作用することで、血清カルシウム値を上昇させずにPTHの分泌を抑制するとともに、血清リン値をも低下させる薬剤です。その作業機序から、上記<注>で紹介しましたカルシウム受容体作動薬(calcimimetics)とも呼ばれています。海外では、米国を始め、EU、オーストラリアなど30カ国以上で既に承認されています。日本では、2000年から血液透析患者を対象とした臨床試験が行われており、ようやく承認となりました。
 今後、「シナカルセト」は、透析患者の二次性副甲状腺機能亢進症の治療に多く使用されていくものと考えられますが、海外の試験では、長期使用により悪心や嘔吐など、消化器関連の副作用症状が出現したことが報告されています。(ただし、投与を中断するほどのものではない)こうしたことから、「シナカルセト」を使用する際は、当初は少量から投与を開始し、患者の状態や検査データなどを確認しながら徐々に増量していくことが必要と考えられます。
 尚、「シナカルセト(商品名:レグパラ)」の詳細については、次の「おくすり110番」の該当ページのURLをクリックしてご覧ください。
http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se39/se3999023.html


BACK




- Genesis -